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闇の音楽の血族

2018/ 07/ 28
                 

小学生の時、少しメルヘンな音楽の先生がいた。
でも、凄い言葉に重みがあるような先生だった。
山田詠美の『僕は勉強ができない』って本があるんだが、
その中で小学校の校長先生と主人公が、生きていることについて語り合うんだが、
主人公が校長に噛み付いて、血の味が口の中に広がり、それが生きているということなんだ、
ということを、本当に身をもって教えてくれる先生だった。

その日はインフルエンザが流行っており、あと一人早退でもすれば学級閉鎖になる直前だった。
しかも外は大雨で、雷も鳴っていた。
本当に女の子が一人体調が悪かったので、クラスのみんなは授業そっちのけで、学級閉鎖に気をとらわれていた。

そんな中、1限目の音楽の先生は語った。
というより、一人言を言ってる感じだった。クラスの誰も聞いていなかったし。
でも今、俺は思い出した。何故だろう。わからない。ここで書かせてくれ。

「先生の血は汚れてるんだ。皆はそんなことないって言うけど、真実は隠せない。
 私の家はね、代々音楽家なんだ。闇の曲を作るね。
 決して人目に触れない情動を、全開にして爆発させる曲をね。
 それは一部の貴族・裕福層だけに聞かされるの。
 私のご先祖様は、それに自分の全てを注そいできたわ。

 でも、本当の闇の曲は、完成できるかどうかはわからないわ。
 私のおじい様は、完成することができなかった。
 60年間、それだけを完成させるために生きてきたけど、
 結局、自分の全てをさらけ出す情動を、譜面に現すことができなかったの。

 私のご先祖様がいままで作った曲は5曲だけ。
 ただ、この5曲が作られるために、一体どれだけの時間と努力が注ぎ込まれたかはわからないわ。
 全ての旋律が、血の一滴一滴まで沸騰させるまでに、感情がこめられているの。

 そして、私のご先祖様は曲を作り終えた後、全員自殺してるわ。
 私のお父さんもそう。

お父さんが死んだのは、私が幼い時だったからよく覚えてないけど、
 毎日毎日発狂して、ピアノの鍵盤を殴りつけていたのを覚えているわ。
 そして、いつしか発狂しなくなって、安堵の表情を浮かべてペンを走らせる日々。
 そして、いつしかいなくなったの。
 そして発見された。死んだ姿で。一人で。

 私もね、おじい様、おとうさんと同じように、曲を作っているの。
 でも、全然だめ。

 ご先祖様が作った曲を、ピアノで弾いた曲を弾いてみたの。
 あんなに…、なんていうかな。心の全てがそこに向かうとでもいうのかな。
 螺旋階段が天国に向かう中、天使が飛んでるとでもいうのかな。
 螺旋階段に終わりは無いんだ。でも、高みに登っていくのはよくわかるんだ。
 で、天使をよく見ると、天使じゃないんだ。悪魔のような笑顔の天使なんだ。
 でも、私は気づかないんだそれに。

 私、何言ってるんだろうね。ごめんね。
 私はきっと、ああいう曲はつくれないんだ。本当の音楽は汚れてる。
 適当な曲を作って、適当な心の弱さを歌う歌が、この世を席巻していればいいんだと思う。
 私に本当の音楽の世界を背負えない。
 本当の音を奏でて、みんなの気持ちを左右させられない。
 音楽でその人の運命を背負うなんて、私にはできない。
 ご先祖様が曲を完成させた後、なんで自殺したか、今の私にはわかる。
 でもわかるだけ。あの高みに登る勇気は私には無いわ。

そして登っても、音楽の全てがわかって、私には何もなくなるわ。存在意義がこの世に無くなるの。
 私はそれを否定したい。でも私は今ここにいる。
 ご先祖様の血を引き継いでここにいる。何も否定できないわ。

 唯一の救いは、日本で血を受け継ぐのは私だけ。
 曲は貴族たちに保管されている。決して外部に漏れることも無いわ。
 私が死んでも誰も困らないわ。
 また誰かが、中毒者貴族に曲を作る。
 最も作る人。自信はバカ貴族のためではなく、自分の望みへのためなんだけどね。きっと。

 先生もモーツァルトやバッハ、今だったらスピッツだっけ?
 そんな表舞台の、さらっとした音楽が作りたかったな。
 多少の情動を譜面にぶつけて、周りの人を感動させられるような適当な曲。
 ある程度の名声・お金・充足感。
 知らなければ、きっと私も幸せに生きれたんだと思う。

 私の血は汚くも、崇高で磨ぎ澄まれた血が流れてる。
 私は生きたい。でも私が生きるためには、私の死が目の前にある」

こんなことを、小さくずっと言っていた。
みんな何一つ、先生の言うことを聞いてなかった。
先生自身も、「今日は自習よ」と言った。
俺は友達がインフルエンザで休んでたから、先生の話をずっと聞いていた。席もピアノに一番近かったし。

次の日、学級連絡網で、インフルエンザでクラスが学級閉鎖になった事と、先生の自殺が伝えられた。
結構人気のある先生であったが、音楽専門で学級自体は担当しておらず、
みんなの動揺が消えるのに時間はかからなかった。

今、なんで思い出したかは本当にわからない。
先生は何者だったのんだろう。
何故か切なくなる。
先生は、本当の孤独を味わっていたのかもしれない。


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