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彼女がいない友人

2018/ 07/ 29
                 

友人のもり君には彼女がいない。もてそうな奴なのに、と不思議に思っていた。

ある日、二人で飲みに行く機会があった。
気になってそのことを訪ねてみると、彼は黙り込んでしまった。
聞いちゃいけなかったかなあ、と思っていたら、「家に遊びに来ないか」と誘われた。
気を悪くしてないことにホッっとして、僕は素直に申し出を受けた。

酔っていたから定かではないけれど、アパートに着いたのは夜の1時前くらいだったと思う。
もり君は鍵を開けると、不思議なことを言った。
「中に入ったら内側から鍵を閉めるから、この鍵で外から開けて入ってきて」
怪訝そうな顔をすると、「内側からかける鍵が壊れていないか調べたい」と言った。
僕はお安い御用と、彼が中からドアを閉めた後から、鍵を回して部屋に入った。

本当はここで、彼がしようとしていることに気づくべきだった。

僕は部屋に入ると、彼と再び酒を飲みながら話すつもりだった。
しかし、酒が水みたいに感じる。
僕はなんだか、その部屋にいるのが嫌だった。
胸騒ぎがする。胃が浮き上がっているような感覚が止まらない。
こちらの気分が伝わったのか、彼の口調も重い。
僕は部屋に入ってからずっと気になっていることを、彼に軽い調子で訪ねたかった。

だんだん家に帰りたくなってきた。彼の家に来てから30分もしない。
もう真夜中だから電車なんかない。それでも僕は、家に帰りたくてたまらなかった。
それくらい、その家にいるのが嫌だった。

その時、どんな言い訳をしたのかは覚えていない。動揺していたんだと思う。
だから、彼が僕を引き留めないことにも、疑問を覚えなかった。
僕は逃げるように、タクシーで家に帰った。

今思い起こせば、最初の鍵が問題だった。
あれの意味は、僕にドアを鍵で開けさせることにあったのだ。
鍵でドアから入り、最初に出て行くこと。

ついこの前、彼女が僕のアパートに遊びに来た。
そして僕があの晩、頭の中で彼に訴え続けた疑問を口にした。
「玄関のハイヒール、誰よ」

僕は今夜にでも、家に友人を呼ばなければならない。



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